無麻酔歯石除去について
2014年01月22日
歯石除去に麻酔は必要か?必要でないか?
獣医師:「○○ちゃん,歯石がついてきましたね.早めに歯石を除去しておいた方がいいですよ。」
飼い主さん:「でも先生,歯石取るのって麻酔しないといけないんでしょ?歯石取るだけのために麻酔かけるのは怖いな〜」
当院の診察室でもよく取り交わされるやりとりです。
以前から歯石除去に麻酔が必要か否かの議論があります。
一部の動物病院やトリミングショップでは、「身体へのリスクが少ない」「動物の身体に優しい」という理由から麻酔なしで歯石除去がまことしやかにおこなわれているようです。
しかし獣医歯科学を専門とする獣医師らから、
「無麻酔での歯石除去はむしろ動物に肉体的・精神的苦痛を強いることになる」
「正しい歯石処置をおこなうことができない」
という指摘があります。
「歯石除去」とはどのようなことをするのでしょうか?
正確な内容を知っていらっしゃるご家族は少ないかもしれません。
歯石除去の重要なポイントは「歯の表面に付着している歯石を取ること」より「歯周ポケット内(歯茎の内部)の歯面に硬く付着した歯石を除去することで歯周病を予防する」ことです。
そのためには、スケーラーという鋭利な先端部をもつ金属性の器具を歯周ポケット内の歯の根面にあてがい力をかけ細かく動かして根面に付着している歯石を掻き取るのです。
スケーラーを無麻酔で歯周ポケット内部の歯に当てると犬は首を激しく振るなどして嫌がります。
頭を強制的に押さえると体を強張らせ逃げようともがきます。
この状況では歯石除去の際に歯周ポケット内の歯肉や根面を傷つけて歯が悪くなってしまう恐れが充分にあります。
歯周ポケット内の歯の表面にエナメル質がないため傷つきやすくとてもデリケートな取り扱いを必要とするエリアなのです。
また歯石除去後の歯の表面をなめらかにする処置(ポリッシング)も必要です。そうでないと不正な表面の歯にはより歯石が着きやすくなります。
無麻酔で歯石除去をしようとすると治療中に動物の急な動作によりスケーラーが動物の舌や口腔粘膜、顔面(目など)を傷つける危険性もあります。
犬は人のように口をあけたままの静止状態を維持できません。時間のかかる緻密な処置を正確におこなうことは不可能でしょう。
また、不快や恐怖から逃れようとして動物が術者や介護者を咬む危険性もあります。
無麻酔の歯石除去で口に触れられるの嫌いになった子は日常の歯磨きなどもさせてくれなくなります。
ワンちゃん達にとって恐怖や痛みがあっても動きを封じられて逃げられない状況(精神的苦痛)は動物に優しい治療とは言えないと考えます。
動物の歯石除去時の麻酔による合併症で飼い主とトラブルになることを憂惧しあえて麻酔を避ける獣医師もいるかもしれません。
全身麻酔の重篤な合併症の発生頻度は極めて稀と言えます。
全身麻酔下で治療を行うメリットの方が明らかに大きいと考えられています。
合併症のリスクより処置を受ける動物の利益が多いのであれば全身麻酔は正当なものといえるでしょう。
私たちは動物たちには可能な限り不要な痛みや苦しみから守ってあげたいと考えます。
意識がある状態で体を押さえつけて治療をおこなうことは「動物に優しい」にはならないとでしょう。
麻酔下では無意識、無痛、不動状態となりますので恐怖や痛みを感じさせず動物を不動化できるため正しい歯石処置を安全におこなうことができます。
以上の理由からワンちゃん達に危険や苦痛を与えずに適切な歯周治療がおこなうために全身麻酔が必須なのです。
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